イェントゥ=ヴィンギエム=コンソン・キエップバックの遺跡・景観群
2025年登録・ベトナム9番目の世界遺産
世界遺産登録の背景や観光地としての特徴、寺院群を楽しむツアーまで魅力をたっぷりご紹介いたします!
イェントゥ=ヴィンギエム=コンソン・キエップバックの遺跡・景観群もくじ
世界遺産の概要
祝!世界遺産登録
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2025年7月、フランス・パリで開催された第47回世界遺産委員会でベトナムの『イェントゥ=ヴィンギエム=コンソン・キエップバックの遺跡・景観群』のユネスコ世界遺産登録が決定されました。13世紀、陳朝時代に栄えたチュックラム禅宗(竹林仏教)の発展に関連する寺院群、遺跡群などが登録されています。ベトナムの国家形成に大きく寄与したチュックラム仏教の遺跡群は2013年から世界遺産登録へ向けて動き出し、遺跡の保存や行政をまたいだ連携などの課題で途中滞りながらも、今回晴れて世界遺産登録となりました。 クアンニン省、バクニン省、ハイフォン市にまたがる広大な範囲に点在するチュックラム仏教関連遺産を一つのテーマとして結んだベトナム初のシリアルノミネーションサイトとして注目され、行政をまたいだ世界遺産登録としては『ハロン湾・カットバ群島』に次ぐ2番目の世界遺産となりました。 例えるなら、宗教的聖地や巡礼同が同じく一つのテーマで県をまたいで登録されている日本の『紀伊山地の霊場と参詣道』のようなイメージになります。
どんな世界遺産?登録基準を解説!
10の項目が設けられている世界遺産の登録基準で、今回『イェントゥ=ヴィンギエム=コンソン・キエップバックの遺跡・景観群』に認められたのは登録基準(ⅲ)と(ⅵ)の2つ。登録基準(ⅲ)は、「現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である」と定義づけられています。登録基準(ⅵ)は、「顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある」遺産に適用されます。
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登録基準(ⅲ)
登録基準(ⅲ)において、チュックラム仏教はイエントゥの山岳地帯に根ざし、国家、宗教、そして地域社会の統合を体現する好例として世界的に重要な文化的伝統を生み出しました。また、ベトナムの歴史において、国家のアイデンティティを形成し平和の促進に貢献しました。
この遺産はベトナム独自の禅宗であるチュックラム仏教の象徴でもあります。チュックラム仏教は、13世紀に陳朝皇帝チャン・ニャン・トンによって創始されました。大乗仏教と儒教、道教、そしてベトナム北部に多い少数民族の信仰・風習を融合させることで、当時の国家の精神的基盤の形成に貢献し、人々の間に平和と統一感をもたらしました。その後何世紀にもわたり、イェントゥ=ヴィンギエム=コンソン・キエップバックの遺跡群は、文化的価値の実践、伝承、そして普及において重要な役割を果たし、ベトナム国内のみならず人類全体に共通する文化的価値観を育んできました。
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登録基準(ⅵ)
登録基準(ⅵ)は、チュックラム仏教はという多くの信仰に由来する宗教が聖地イェントゥから生まれ、発展し、強い国を促進し、地域の平和と協力を確保するために世俗社会にどのような影響を与えてきたかを示す世界的に重要な例として認められました。
寺院群は、チュックラム仏教の創造的かつ人間的な価値観の起源と普及を伝えています。ベトナム国内外のチュックラム仏教徒コミュニティによる儀式、祭り、仏法布教活動、巡礼等の継続的な実施は、その人道主義的哲学、生命の価値、共同体精神、自然との調和、平和への愛、そして慈悲の、世界における揺るぎない重要性を証明しています。
チュックラム仏教の創始者 Trần Nhân Tông
1225年~1400年の間栄えた陳朝3代皇帝の陳仁宗(Trần Nhân Tông)はチュックラム仏教の創始者であり、アジアで唯一、自ら王位を放棄して出家して仏教の道へ進んだ人物として知られています。 ベトナム北部は10世紀末まで長い間中国の支配下にありましたが、それを打開してこの地域を独立させたのが李朝でした。李朝から王位を奪って13世紀に成立した王朝が陳朝です。この期間ベトナムはモンゴル帝国・元軍から侵略の危機が幾度もありました。その影響下で1278年に3代皇帝として即位したのがチャン・ニャン・トン(陳仁宗)です。 チャン・ニャン・トンの大きな功績は、当時最強勢力であった元軍の侵攻を2度も撃退したことです。将軍チャン・フン・ダオを軍の指揮官に登用し、1285年と1288年の2度の侵攻を破りました。皇帝として人材採用の制度を整え、民意を取り入れる国造りで政治的能力に長けていたほか、文化人や宗教家としても知られておりベトナム史上でも多才な皇帝でした。 そして、皇帝として政治に尽力したのち、自ら退位して出家したのです。ベトナム北部、クアンニン省のイェントゥ山に入り修行を積んでチュックラム禅宗を開きました。当時中国から伝来した仏教や道教、儒教、その他少数民族が多い北部の民間信仰や慣習を幅広く取り入れ寛容な教えでベトナム人の心を一つにしたとされています。それによ国内が統一され安定し、ベトナムの歴史がさらに前進しました。今でもチュックラム仏教は国内で最大の宗派の一つになっています。
構成資産
構成資産はチュックラム仏教の発展に関連した、クアンニン省、バクニン省、ハイフォン市にまたがる広い範囲に分布する寺院群、僧院、巡礼道、景観、遺物や無形文化遺産などが登録されています。それぞれの資産が信仰の発展において重要な役割を持ち、広範囲かつ長期で発展してきたためすべてをまとめることは難しいですが、ここでは観光の目線からイェントゥ、ヴィンギエム、コンソン―キエップバックをご紹介いたします。
イェントゥ山の寺院群と景観
一番のメイン観光地といえるのがイェントゥ山。ハロン湾と同じくクアンニン省にある標高1,068mの山のふもとから頂上にかけて、寺院や仏塔などが点在し、美しい自然の中に石段の巡礼路が整えられたチュックラム仏教の聖地です。麓から頂上まではケーブルカーが2本かけられており、休憩所や売店とともに観光地としても設備が整っています。
イェントゥ山にはチャン・ニャン・トン王とその後の弟子たちが信仰のために築いた寺院やチャン・ニャン・トンのお墓である仏塔、松林などが山のふもとから頂上にかけて点在しています。晴れた日には美しい自然と景観が楽しめるのも魅力です。観光の際は山にかけられた2本のケーブルカーを乗り継ぐか歩きで山登りを楽しみつつ要所要所の寺院をくまなくめぐる選択できますが、ケーブルカーを往復で乗った場合でも全行程の所要時間は4~5時間と聖地らしく壮大なスケールの巡礼体験になります。
最初のケーブルカーを降りて山の中腹に位置する仏塔は始祖チャン・ニャン・トンのお墓。そこから石段を上がった先にある美しいホア・イェン寺院はイェントゥ山最大の寺院であり中枢的役割を果たします。
さらにもう一本のケーブルカーを上がって、急な山道と石段を進んだ先、イェントゥ山の頂上にあるのが最もアイコニックなドン寺院。山頂にそびえる銅製の寺院はチャン・ニャン・トン王とその後のお坊さんたちの礼拝所であり、山頂から眺める壮大な景色と美しい自然、寺院の美しさは巡礼者に限らずきつい山登りをしてでも訪れるべきスポットです。
年始の3カ月は巡礼シーズンに入り、毎年多くの巡礼者や観光客でにぎわう他お祭りなどが開かれます。観光に最適なシーズンは9~11月、北部で最も天気が安定し暑さも和らぐ時期に訪れるのがおすすめです。
★注意★山登り結構きついです
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観光地としてケーブルカーが整備され巡礼の負担が大幅に短縮されているものの、山頂にある絶景のDong寺までは少なからず石段があり、体力勝負は避けられません。また、快晴になると日差しが強く、天候が荒れると視界が悪く足元も注意になります。もちろん2本のケーブルカーを乗り継いで山頂まで行かずとも、途中にも美しい寺院や歴史を感じられるスポットはたくさんあるので、少しでもご興味がある方は訪れる価値ありです。
コンソン寺院
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コンソン寺院はハイズオン省・チーリン、コンソン山の麓にある仏教寺院で、周辺に点在するコンソン-キエップバック遺跡群の中心的な遺跡です。11世紀に建立され、チュックラム仏教が花開いた13世紀には大規模に拡張されチュックラム仏教の拠点として中枢的役割を果たしました。世界遺産登録以前から国指定史跡に登録されているほか境内にある石碑の一つは国宝に指定されています。チュックラム仏教の始祖、チャン・ニャン・トンの陳朝の後の時代もこの場所は重宝され、発掘調査から歴代王朝の建築様式の瓦や高級釉薬を使用した陶器などが出土しています。1965年にはあのホーチミン氏も戦争のさなかこの地を訪ね、石碑を朗読し、歴史的価値のある史跡と美しい自然景観を保護するように指示したと記録が残っています。
晴れた日の夕方、静まり返った境内と夕日に赤く照らされる寺院はこの世界遺産の中でも最も美しく、どこか懐かしさを覚えるような感覚になるおすすめのパワースポットです。
キエップバック寺院
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コンソン寺院と同じくハイズオン省チーリンにあるキエップバック寺院は、13世紀にモンゴル軍を撃退した英雄的将軍のチャン・フン・ダオの生涯と密接に結びついています。この場所はチャン・フン・ダオが軍事拠点として邸宅を築き、地図を見れば一目瞭然、川の合流地点と山に囲まれた地理的条件から外敵を防ぐ軍事拠点の要所としては最適な場所でした。
その生涯で最も有名なのがバックダンザンの戦い。モンゴル軍の3度目の侵攻の際に戦況が不利になったモンゴル軍の水軍は川を使って海路脱出を試みますが、チャン・フン・ダオはこの地の先人の知恵に倣って潮の干満を利用した罠を仕掛け、モンゴル軍に大打撃を与えます。
その後チャン・フン・ダオは救国の英雄として神格化され、当時から拠点であったこのキエップバックの地に祭られています。チャン・フン・ダオによるモンゴル軍の撃破で、モンゴル軍は日本へ計画していた3度目の元寇も断念したという説があるので、日本人にとっても救国の英雄になるかもしれません。自然条件に囲まれた風光明媚な景色と力強さが伝わる寺院の門など歴史を少しでも知れば見どころが尽きません。
ヴィンギエム寺院
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ヴィンギエム(Vĩnh Nghiêm)寺院はバクザン省に位置する古寺で、世界記憶遺産に登録されている木版経典がが有名です。創建は陳朝より前の李朝の時代で、その後仏教が大いに栄えた陳朝時代にチュックラム仏教の布教拠点として中心的な役割を果たしました。また仏教学校としてこのお寺で多くの僧侶が育成されたとされています。その僧侶の修行で使われた木経が保存されており、現在は公開されていませんが寺院内に大切に保管されています。
また、お寺はチャン・ニャン・トンの他にチュックラム仏教の三祖とされている法螺と玄光が祀られています。
世界遺産を楽しむおすすめツアー
ハノイからイェントゥまでは車で片道2時間半ほど。イェントゥ山の観光はケーブルカーが整備されていますが巡礼路の石段のぼりも免れず、最低でも4時間くらいの観光所要時間となるためハノイから1日ツアーのイメージとなります。山のぼりはしたくないけど世界遺産を訪ねてみたいという方にはコンソン寺院やキエップバック寺院、ヴィンギエム寺院もおすすめ!こちらはハノイから半日で行って帰ってこれます。ただ、せっかくならハロン湾とセットで世界遺産を満喫してしまうのが効率的!1泊2日で初日にハロン湾クルーズを楽しみ、その夜はハロンの市街に1泊、翌日のハノイへの帰路でイェントゥやコンソン=キエップバックによれば効率的に欲張りなツアーが実現します!
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ハノイ発イェントゥ山1日ツアー
朝ハノイを出発してイェントゥ山の寺院巡りをする日本語ガイド付き世界遺産ツアーです。チュックラム仏教の総本山イェントゥは仏教徒に限らず観光目的でも世界遺産巡りでもハノイから楽しめる新たなツアー選択肢となりました。ぜひ一度イェントゥの山登りに挑戦してベトナムの仏教文化に触れてみては⁉
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<ハノイ午後発>世界遺産のパワースポット寺院を巡る(海鮮鍋の夕食付)
イェントゥまで行かずとも、ハノイからちょっと足を延ばしたところにヴィンギエム、コンソン-キエップバックの美しく歴史を物語る寺院群があります。1日かけた山登りは難しくても、世界遺産に興味がある方にはおすすめ!お昼過ぎに出発し、美しくなる夕暮れ時を狙います。帰り道にシーフードが名物のクアンニン省直送の海鮮鍋を堪能お手頃ツアーです。
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ハロン×イェントゥ 世界遺産欲張り1泊2日
世界遺産巡りをしたい人のために!クアンニン省にはイェントゥの他にあのハロン湾があります。最も効果的に巡る方法はハロンに1泊するやり方。初日にハロン湾観光クルーズに参加し、その夜はハロンの街に宿泊。翌日ハロンからハノイの帰り道にYen Tuに立ち寄ります。ハロン湾クルーズは観光と豪華な食事が魅力のラグジュアリークルーズ"Paradise Halong"を利用!宿泊×観光込みの超お得なプランです!